第41章 暗鬼による確信による、
ここに来るまでにあった出来事は、あまり愉快なものではなかったのだろう。
それにもしかしたら、“彼女の世界”に何かあったのかもしれない。
話してもらえるかわからない。
だが、エドァルドたちは、それをきっと知らなければならない。
――この人に、今以上の重荷を背負わせることになろうとも。
トーリスが、フロントミラー越しに心配そうな視線を公子にむける。
そしてそのまま、視線をこちらによこしてきた。
エドァルドはそれに応え、手始めに自分たちの状況から説明することにした。
“異変”に関する不穏な情報が入り、あの場にいたこと。
これからバルト三国会議で集まるところだったこと。
そしてロシアの諜報員がいたこと。
「諜報員と公子さんの接触は避けるべきと思ったので、ひとまず車内に案内しました」
「いえ……ちょうどイヴァンさんから逃げて来たような状況でしたから、助かりました」
「それは、本当に大変でしたね……少し休んでいきませんか? とてもお疲れのようですし」
「あ、ありがとうございます、ご迷惑でなければ……」
泣きそうな笑みを浮かべて、公子はそう言った。
罪悪感がまた、ずし、と重みを増してエドァルドの胸の底に沈む。
――それでも、残された時間はあと僅かだ。
窓の外を流れていく景色を見ながら、エドァルドは携帯を握りしめた。