第40章 疑心または月夜にて
幾度目かのもう慣れた酩酊感から目を醒ますと、足下でざり、という音が鳴った。
曇り空とアスファルトの間に、私は立っていた。
あたりを見回さずとも、風のない大気で理解する。
ゴーストタウンに来たのだ。
と、視界のはしで金髪が揺れる。
はっと顔をあげると、フランシスが目の前にいた。
そばでアーサーも立ち上がろうとしている。
「よかった……!」
一人ではないこと、真っ白な空間でないことに安堵して声がもれた。
呼ばれたフランシスの顔は、突然のできごとに戸惑っていたが、私と視線を合わせるなりニコっと笑ってみせた。
彼はたしか、ここに来るのは初めてのはずだ。
「びっくりしたよ、ここが例の場所?」
いつもと変わらない、軽い口調。軽い笑み。
まるで、私を安心させようとしているかのように。
――私が、しっかりしなくちゃ
私の背中越しで、フランシスはなにかに視線を注いでいた。
その視線を追うように振り返ろうとして、唐突に、彼の笑みが消える。
その碧眼が、ゆっくりと見開いていく。
「公子ちゃんっ!」
鋭い警笛のような声を聞いた瞬間、体が吹き飛ばされた。
そのまま真横の地面にたたきつけられる。
けれど体は、それほど衝突の痛みを訴えなかった。
私が受けとるはずだった痛みを、フランシスが受けとっていたからだ。
「なっ……!?」
言葉を失うアーサーのうめきも、よく聞こえなかった。
「え……」
いやな感覚が、左の腰を這いあがる。
“それ”はぬる、と左手にもついて、一番見たくない色に手を染めあげていく。
私をかばうように抱きかかえるフランシスの腹部に、赤い染みがうごめいていた。
その赤の延長線上、フランシスの肩ごしに、“彼”はいた。
「マシュー……?」
銃を構え、穏やかに笑むマシューが。