第40章 疑心または月夜にて
「公子、きみは――」
RRRRRRRRRRRRRRR
アルの言葉を遮って、携帯がけたたましい着信音をあげる。
びくっとしたのちに、ハっとしたようにアルがポケットを探った。
明滅する光は、アーサーからの着信を知らせていた。
「もしもし」
『アル!? マシューがいた!』
「……え?」
走りながら大声で話しているらしく、声がだだもれだ。
怒鳴っているようにも聞こえるアーサーの声にも驚くが、それ以上に、マシューの名前を聞いた瞬間アルの顔が明らかに変わったことに驚く。
顔がこわばり、瞳には混乱がありありと浮かびあがっている。
『デパート付近の歩道だ! 今追ってる!』
「――す、すぐ行く!」
「ちょっアルフレッドさんどこへ!?」
話しながら駆け出したアルを止めることもできず、菊は叫んだ。
騒ぎに気づいた国々は、部屋を飛び出すアルを茫然と見ている。
その中で、菊がガタン! と音を立てて立ち上がった。
「行きましょう公子さん!」
「えっ、あ、はい!」
「あのアルフレッドさんを一人で行かせるのはまずい気がします……!」
捻り出すように呟いた菊の言葉に、頭の端で警鐘が鳴り始めた気がした。