第40章 疑心または月夜にて
よほど私は、硬く思いつめた顔をしていただろうか。
菊はひとつ息を吐いて、「わかりました」とだけ言った。
「そのかわり抱えすぎて無理をしたら――許しませんよ」
そう言って、にっこりと、菊は笑った。
「ハ、ハイ」と背筋につららができるような笑みだった。
そんなふうに戦慄していると、
「ちょっと、二人でなにをコソコソしているんだい」
「ゴフッ」
「わぁっ!?」
突如、ドシン! という重みが肩にのしかかる。
隣の菊が腹パンされたかのような呻きをもらしていたが大丈夫だろうか。
首をひねって見上げると、そこにいたのはアルだった。
まさか聞かれてはいないと思うが、少し慌てる。
「なっなんでもないですよ、それより会議はいつ始まるんですか?」
「アーサーたちが戻り次第だから、もうすぐ……」
その語尾は、小さく消えていた。
不自然に口をつぐむアルに、菊も顔に「?」を浮かべている。
本当にどうしたのだろう。
上司に呼ばれたときも顔を曇らせていたし、なにかあったに違いない。
“巻戻り”のことを言ったりしたら、今以上の負担をアルに強いることとなる――だから言うべきではない。
いつもより精彩のない碧眼に、改めてそう感じた。