第37章 第二部 プロローグ/プログラム起動
真っ暗な空間に、自分の足音だけが響く。
懐中電灯を手に、アルフレッドは廊下を歩いていた。
時刻は23時。
研究施設はすでに閉まっており、彼のほかには誰もいない。
電力システムも休止していて、手元の光だけが頼りだった。
「う……そう考えると怖くなってきたんだぞ……」
弱気なひとりごとが廊下に残響する。
いかにも何かが出そうな角をまがり、階段をのぼった。
ぼわっと暗闇を抱えた踊り場が現れ、思わず息をのむ。
「……早く忘れ物とって帰ってゲームするんだぞ!」
ここのところ調査続きで、ろくに遊べていなかった。
おかげで菊に借りたゲームの返却期日が、一年四か月ほど過ぎてしまっている。
一人で遊ぶのもなんだし、マシューにも遊ばせてあげよう。
きっと素晴らしい気分転換になるに違いない。
いい考えだ、とひとり満足げに頷きながら、目的の部屋への、最後の角をまがる。
「……え?」
目に入ってきた光景に、無意識に声がこぼれていた。
自分の目を疑い、それから上司の言葉を疑う。
――ある部屋から、青い光が漏れだしていた。
人の気配もする。
キーボードを叩く音や、機械の作動音もかすかに聞こえた。
上司の言葉が正しく、かつ、ホラーな事態でないなら――
(……侵入者?)