第1章 プロローグ
いる。
誰かが、いる。
「……っ」
サーッと血が凍りついていく。
嘔吐感は和らがない。
心臓があるかと思うほど、こめかみがズキズキと脈打つ。
でも、なにが起きたのか確かめなくちゃ――!
バッと顔をあげ、ひらける視界。
途端私は、目を見開かずにはいられなかった。
情けなく口が半開きになり、まばたきはおろか呼吸さえ止まる。
『あぁ、これはマズい』と誰かが耳元で呻く。
目の前には黒髪の青年がいた。
風呂あがりで、全裸の。
「…………え」
炭酸の抜けたソーダのような声が、やっとこぼれた。
あまりに信じられない光景。
我が目を疑う。
この人って――
不意に、視界がせまくなった。
体のどこにも力が入らず、足がもつれる。
「――――」
なにかを言われた気がした。
けれど私は、そのまま意識を手放した。