第26章 電波塔クラスレート
雨に濡れて、にぶい銀色にそびえる電波塔。
そこが、彼の目的地だった。
滴を落とす鉄塔はごくありふれた形をしていて、わざわざ足を運ぶ理由がわからなかった。
それとも、私の与り知らぬなにかが、ここに隠されているんだろうか?
「ねぇ、ギル――」
そう問おうとした声が、ふつりと抜け落ちる。
「……」
横顔が。
鉄塔を見上げるギルの横顔が、あまりに綺麗で。
思わず目を奪われてしまった。
憂いを帯びた無表情からは、なにも窺い知ることができない。
ものも言わずに、ただ、電波塔を見上げている。
声を発するのが悪いことのように感じられた。
私も沈黙のまま、仕方なく電波塔に目をやる。
塔は私たちを冷たく見下ろし、無言で雨に打たれていた。
なんの変哲もない、いつも風景の一部となって、意識の底に埋没している電波塔だった。
「……」
「……」
しばらく、2人無言で電波塔を見続ける、という奇妙な沈黙が流れていた。