第23章 消失のための再帰点より
――……
……
感覚が戻り、あたりを見回す。
見慣れた自室の床で、私は仰向けに倒れていた。
ひとまず体を起こすため肘を立てようとすると、突如のしかかってきた重みに失敗する。
眼前に大きな影が立ちはだかっていた。
いや、
「なっ――!?」
部屋に、ギルがいた。
それどころか、床で仰向けになっている私を、床に手をつき四つん這いに近い格好で見下ろしている。
さっきと同じような体勢だが、今度はそれ以上にマズい。
この体勢ってまるで――
「……ま、また本棚でも倒れて……」
続けようとした言葉が、ぷつりと途切れる。
ギルは無機質な表情でこちらを見下ろしていた。
それは、「見られちまったか」と返答した時の目と同じ目だった。
なにを考えているのかわからない、爬虫類のような瞳が、私の目の奥を貫いていた。
彼はおもむろに左手を床から離し、自分の顔の近くまで上げる。
そして、静かにそれを拳の形に握りしめた。
「……ど、どいて……ください」
口が乾いて、ひねり出した声がかすれる。
彼は無言のまま、口元を微塵も動かさない。
電灯の逆光で陰になるギルの顔は、私の声など届いていないようだった。
背骨がギシギシ冷たく軋む。
体の動きは制限され、腕の中から抜け出せない。
ギルが拳をふりあげる。
「やめて――っ!」