第23章 消失のための再帰点より
「わっ!? ちょっ――!!」
フランシスの鋭い声が耳をつく。
傾く世界。重い背中。その重みでバランスを崩し、派手に前のめって倒れる。
手をついたのはフローリングの床だ。
どうやら再帰点についたらしいが――
「公子っ!!」
「え?」
首をひねり顔を天井へ向ける。
すぐ近くにギルの焦った顔があった。
というかなぜか馬乗りのような体勢をされている。
様々な意味で奇声をあげそうになるが、硬い衝撃音がそれを遮った。
思わずつむった目を恐る恐るあけると、
「なっ――ギル!」
私に覆い被さったギルに、はしごが倒れていた。
本もいくつか床に散らばっている。
中には鈍器になりそうな、分厚い辞典もあった。
ギルがかばってくれなければ――その下敷きになっていたのは私だ。
「しっ死なんといてギル!」
慌ててアントーニョがはしごをどかし、ギルを起こそうとする。
わざとらしくも見えるその慌て具合に、ゆらりとギルが立ちあがった。
「俺様がこんなんで死ぬわけねぇだろ」
そう真顔で低く言って、私に手をさしのべた。
ドキドキがまだ収まらないまま、手を取り立ちあがる。
せまく薄暗い書庫に私たちはいた。