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【ヘタリア】周波数0325【APH】

第22章 依然重複領域外に


「なにか困ったことはない?」

「目の前の人物に関することなら山ほど」

ムスッとして答えると、イオンがさも可笑しげに笑い声を立てる。



……あ、れ?



“なにか困ったことは”って、トリップとか諸々のことを知ってるの……?

「……イオン――」

「方程式の中だから」

「?」

そばにある街路樹の幹に手を添え、唐突にイオンは言った。

よく見ると、彼には影が、ない。

曇りだから? いや、だけど街路樹には――

「乱数なんていらないんだ。無秩序な数値は予定調和を壊すから」

違和感の正体を探っていると、空に視線がいった。

なんだろう、雲がさっきから1ミリたりとも動いていないような……いや、そもそも太陽が――



「僕は死者だ」



「……え?」

一陣の風が吹き荒れ、大気を強く撫でる。

街路樹の葉がかさかさと鳴り、どこかの窓が軋む音が聞こえる。

風の中、彼は微笑んでいた。

慈しむような、それでいてひどく悲しそうな。

――まるで箱庭を見守るような。

「待っ――」

どこまでも広がる地平線へ手を伸ばす。

髪があおられ視界を遮る。

風が空高く消えたあと、もう彼の姿はなかった。

行き場をなくした手が、あてもなく彷徨っているだけだった。
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