第3章 月夜にて
その後、公子は再び眠りについた。
そうせざるを得なかったのもあるだろう。
部屋に残された湾と香も、しばらくしてから出てきた。
今頃ヨンスと遊んでいるはずだ。
一方菊と耀は、リビングで手元の書類と格闘していた。
「あの娘、どう思うあるか?」
ふと、どことなく上の空で耀が尋ねた。
「私は信用できる方だと思います」
「自国の民だからって贔屓目なんじゃねーあるか」
「ふふ、そうかもしれません」
窓の外、川に沈んだ満月に目をやって、菊は微笑む。
時刻は22時をまわっていた。
散った花びらが、濃紺の川面で淡く白んでいる。
僅かに開いた窓からは風とせせらぎの音が入りこみ、それが時計の秒針の音と重なった。
公子が現れてから、既に4時間が経つ。
「あなたこそどうなんです?」
「……わかってるくせに聞くなんてやな奴ある」
「すみません、にーにーと呼ばれたことが余程嬉しかったようで」
「わっ笑うんじゃねーある!」
なぜ公子が耀をにーにーと呼んだのか。
しかし菊には、なんとなくわかり始めていた。