第18章 制約には切手を
お洒落に着こなしたスーツ、シャツのボタンはもう少ししめてほしい。
ふわふわした髪は、鮮やかな碧眼によく似合う金色。
後ろでゆるく結ばれたリボンが、ほどけそうになっていた。
急いで来たようだ。
いつも通りごきげんな表情の目が、視界に入った私でピタッと静止する。
「……え……なに? なにどうしたのこの子っ!? お兄さんの知らないとこで誰か雇って――」
「うわ言ったそばからなんで来たんだよ!」
「この子が俺を呼んだからじゃない?」
「死ね」
にべもないアーサーの即答。
やつれた真顔(としか言えない)をしている。
それに対照的なフランシスのキメ顔。
2人の温度差にすでにふきだしそう。
「ボンジュール、マドモアゼル」
「わっ!」
唐突に、抱えるほどの薔薇の花束を渡される。
圧倒的で、かつビロードを思わせる上品な深紅の花びらだ。
ふわっ、とうっとりするような香りがした。
しかし、それ以上に甘い声が耳にすべりこんでくる。
「俺はフランシス・ボヌフォア。あなたのお名前を聞いても?」
「え? ……あっ、はいっ! 主人公子です!」
本気モードの気品溢れるフランシスに、たじたじとなって気後れしてしまう。
それ違う用途じゃないんですか、とか一瞬考えた私がおかしく思えてくる。
「公子ちゃん、君と出会えた今日を記念して、この花束を受け取ってくれる?」
やだ……かっこいい……
「どっから持ってきたんだよ!!」
「ていうか坊ちゃんなにその格好! 新手のプレイ?」
「マジで死ね」
おなじみのコントを繰り広げる二人に、笑いを堪えられるはずない。
にぎやかな会議場での騒ぎは、しばらくやみそうになかった。