第2章 邂逅と眩暈と
「確かにそうあるな」
つぎに口を開いたのは、耀だった。
物思いにふけるように、妙に感心した声音だ。
「敵なら敵地の飯なんて食べねぇある。しかしこの娘はのん気に食ってたある」
どうせのん気なやつですよ。
というか敵って、本当になんのことだろうか……。
「それに――こんなまぬけなツラした娘に、なにかが務まるとは思えんある」
「なっ!」
耀はにーっと愉快そうに口角をあげた。
それは、胸の奥がぽっと温かくなる笑みだった。
信じて、くれている? こんな与太話を?
だがまぬけなツラとは聞き捨てならぬぞ。
「ありがとう……菊、にーに」
安堵に似た気持ちに、素直に口が滑る――ま、マズい今私にーにとかほざいて――
「……あ、えっとその……」
気まずげに二人を見れば、目が点というか、キョトンとしている。
しかし、なぜだか耀の頬が緩み始め、
「好きなだけにーにと呼ぶあるー!」
「うひゃあああぁぁぁっ」
嬉しくて仕方がないような表情で飛びつかれた。
一方菊も、なぜだか目が据わっていた。
「……公子さん、もう一度にーにと言ってくれますか?」
「…………え?」
「にーにでもお兄ちゃんでもお兄さんでもお兄様でも構いませんから――」
待て祖国、その手にあるカメラは一体なんの目的であそばされますか。
このキティちゃんやるある、と超笑顔の耀。
シナティちゃんを押し付けられ、そのニヒルな笑みにビビっていると、
「俺も信じるぜっ!」
当然とばかりに、ヨンスが賛同の声を上げた。
「嘘ついてる奴に特徴的な動きとか、全然なかったんだぜ!」
「!?」
も……もしかして、スキンシップはそれが目的だったのか!? そんなの私の知ってるヨンスじゃな――
「私も皆に賛成ネ」
「ちょ、皆て――」
香くんを軽やかに無視して、湾ちゃんが言った。
「公子ちゃんの持ち物――服だけだったけど――に変なものなんてなかったヨ。いくらなんでも丸腰すぎるネ。しかも現れた場所からしてもう……ネ~」
口元に袖で隠れた手をやり、湾ちゃんはさも可笑しそうに笑う。
持ち物っておい。
というかこの湾ちゃんも私の知ってる湾ちゃんじゃな――ってアレ?
「……」
不意に、頭のてっぺんからつま先まで、強烈な違和感が走った。