第16章 尋問は庭先で
「なんて言ってた?」
「1時間後くらいにこっち来――ってなにいじくってんだぜ!?」
「sorry、なんか押したかも的な」
「ええええええええええええええええ!?」
やってしまった顔をしている香を押しのけ、ヨンスはパソコンに駆け寄った。
すぐさまカタカタとタイピングし始める。
その険しかった顔が、キョトンとしたものになった。
彼の背から画面を覗きこみながら、香は恐る恐る尋ねてみる。
「なんかヤバイ?」
「いや……これは――」
言いながら、ヨンスの表情に困惑がさした。
タイピングが加速していく。
香にはさっぱり理解できない英数字が、雪崩のようにスクロールしていく。
やがて、ヨンスはその手を粛然とキーボードから離した。
「……? どうし――」
「イヴ、なのか?」
唐突な単語がヨンスの口をついた。
青いディスプレイを反射して、彼の瞳の中で不穏な光彩が揺れる。
その顔は、心なしか戦慄しているようにも見えた。
わけがわからない香は、まず話の人物の正体を尋ねることにした。
「イヴってwho?」
しかしそれにこたえず、ヨンスはくるりと向き直る。
「ちょっとヤバイかもしれないけど、パス見つかりそうなんだぜ」
「ヤバイってどうヤバイ?」
「んー……消される的な意味で?」
「……」
黙り込む二人の背後で、携帯の無機質な着信音が鳴り響いた。