第15章 廃マンションにて
「そういう問題じゃないってわからないのかい?」
「あ゙? さっきからなんだよ、喧嘩ふっかけてんのか」
「なにか不測の事態が起きたときどうするんだと聞いてるんだ!」
「はいはいクソ弟にご迷惑はおかけしませんよ」
「だ……か、ら! どうしてわかってくれないんだ!!」
「わかってるよ、お前が俺を嫌ってることは……よくわかってるからさ……」
ハハ、と死んだ魚の目で力なく笑うアーサー。
そこに、にこーっと無邪気な調子で、フェリちゃんが口をはさんだ。
「アルは、アーサーを心配してるんじゃないかな?」
なっ!? とアルが憤然と反撃する。
「心外なんだぞ!! そんなつもりは全くない! さっきも言ったじゃないか、なんで俺がこんなやつを心配しなきゃなんないんだっ!!」
「フェリシアーノ、気遣ってくれるのは嬉しいが、かなしくなるだけだからやめてくれ」
ポカポカ、いやドスドスと重い拳でどつかれながら、相変わらず死んだ魚の目で力なく笑うアーサー。
フェリちゃんが眉を下げた。
その目は、なにか死にかけた小動物を見るようだった。
「アーサー……あんまり、思い詰めないでね。お前ってご飯まずいしはっきり言って苦手だけど、なんかあったら俺んちきなよ? おいしいパスタやピッツァ作ってあげるから」
フェリちゃんの鬼畜じみた優しい言葉に、いろいろな意味で泣きそうなアーサー。
憐れみをにじませながら、ほんわり笑うフェリちゃんと見つめ合っている。
アルといえばそっぽを向いて不機嫌そうだし、菊はまだのびている。
なんなんだこの状況。
いっそのこと腹を抱えて笑いたかったが、頭を占めている感情がそれに勝った。
さきほど視界をよぎった人物。
もし私の推測が、視覚が正しければ、
あの人影は、あの銀髪は紛れもなく――ギルベルトだった。