第2章 恋人同士の日常 ~手塚 国光 編~
待っていた……ただ、あいつが出てくるのを。
今日は試験前と言うこともあり、部活がないと言うのも理由の1つだ。
しかし、何と声をかけるべきか……交際するようになったものの、取り分け二人で何かをしたと言うことがない。
そんな俺たちを見かねた不二から、こんなときだからこそ一緒に帰ったらと助言された。
されて待ってみたのはいいのだが……。試合前とは違う胸の高鳴り…。
それが【恋】だと教えてくれたのは……。
?『…国光さん?』
いきなりで対処出来ず、しばらく思考が止まった。
?『誰かと待ち合わせですか?』
肝心の俺の【恋人】は、まさか自分だとは思っていないよう。
俺の手には小説があるものの、内容など少しも入って来ない。
?『ごめんなさい。お邪魔しちゃ駄目ですね。それじゃ、お先に失礼します。』
その時になってやっと……やっと、声をかけるより手が出ていた。
咄嗟に掴んだ恋人の小さな手。驚いたのは恋人以上に、俺自身だった。
俗に言う……口から心臓が出そうだ。
藤堂『国……。』
手塚『一緒に……帰らないか?』
絞り出した言葉は、何も意味など持たないようなあり触れたもの。
それでも、香は……真っ赤な顔をしながらも、これ以上ない【笑顔】を見せた。
この時に…俺の意味など持たなかった言葉に、恋人が意味を示してくれた。
咄嗟に掴んだ手は繋がれたまま。ただ、離すタイミングが分からずそのままだと言うのもあるのだが。
手塚『香……今度、一緒に出掛けないか?』
恋人は……びっくりした顔をして……小さく頷いた。
俺にはなかった【色】がモノクロから、鮮やかやモノへと変わっていく。
恋人……この存在が俺にとって、どれだけ大きくてかけがえのないモノへとなっていたか…。
今はただ……意味をくれたこの二人だけの時間を堪能するとしよう。
柔らかく握った恋人の手に癒されながら……。