第5章 あまく やさしく もどかしく
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教え子の恋愛は、見ていてとてももどかしく、愛おしい、
ましてや自分のクラスの生徒で、部活の指導にもあたっている彼の恋愛
…の、はずなのに。
(どうも、違和感が拭えないね)
らしくない、と思いながらラッキーストライクをゆっくり肺に貯める。
煙草らしい、重たい風味が身体中に広がり、それに合わせてゆっくりソファに体を預ける。
「綺麗だったんだもんなぁ~」
誰に言い訳するでもなく、瞼に焼き付いた屋上での彼女の横顔を思い出す。
風に揺れる黒髪と、綺麗な鼻筋、煙草の煙越しに見えた、儚い横顔。
予想していた時間よりだいぶ遅くにコンコン、とノックする音が聞こえ、咥え煙草のまま施錠を外す。
「日誌、持ってきました。」
「ちゃん、おつかれさん。」
明らかに眉間にしわを寄せたまま、ちゃんはずかずかと準備室に入る。
手早く制服の内ポケットから煙草とライターを取り出し、彼女は煙草に火をつけ、流れるようにソファに座る。
(…わかりやすいんだから)
「ちゃん?」
「あ、はい?」
「今日は一段と反応が鈍いね〜」
「…アキラのこと?」
彼女はびく、と肩を揺らす。
どこか腑に落ちなくて、どこかもどかしくて、
でも俺は教師として彼女に微笑みかけた。
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