第5章 悲惨な過去
意識がない。
びっくりしたのだろう。
そんなことを考えていると女は
瞳をゆっくりと開いた。
「ここは…」
「大丈夫か?」
「…あ、はい…
ご迷惑かけてしまってすいません…
って、せっ、生徒会会長、
秋月司様!?」
「……」
俺が顔をのぞき込むなり
いきなりあたふたとする彼女をみて
思わず、可愛いと思ってしまった。
「おまえは?」
「足立花音といいます…
あの、会長の服とか!髪とか!
濡れちゃってて…その!
そんなこんな運よく誰かくるとか
そんなの思ってなくて!
…ごめんなさい…」
「いや、無事でよかった」
「会長ってもっと怖い方だと
思ってました。
本当はすごくすごーく
お優しいんですね」
優しいだと?俺が?
聞きなれない言葉に硬直していると
彼女が顔を赤らめて、
「…っと、あの、こんなこというのも
失礼ですが、ち、近いです」
と言った。
なんだこの可愛い生き物は。
さっきまであんなに騒いでいたと思えば
いきなり困った顔をして
突然笑顔になり、
挙句の果てに照れるだと…
それが俺たちの出逢い。
俺が花音に惚れた日、
人生で初めて誰かを好きになった日だった。