第1章 【澤村 大地】私の機嫌を直してよ
本日はバレンタインデー。
教室では女子たちがキレイにラッピングされたチョコレートを男子へ渡していた。
私はというと…。
「ひろか?どうしたんだよ、そんな顔して」
私に声を掛けてきたのは彼氏の澤村大地。
私の席の前に座って片肘を突きながら私を見て笑った。
「べっつに~」
私は一度彼を見た後に、プイッとそっぽを向いた。
私の機嫌を悪くしたのは、少ながらず彼氏である大地の行動なんだから。
「なんだよ…。そんな顔してると眉間にシワ出来るぞ?」
大地はそう言って私のおでこを擦る。
腹が立つ。この鈍感野郎。
「澤村くんは、随分おモテになるようですねっ!」
「・・・は?」
私は大地のカバンと共に机の横に掛けられているきれいな紙袋を指差した。
あぁ。と私の機嫌が悪い理由を理解したのか、大地は大きくため息をつく。
「あれは義理チョコだろ?」
分かってる。分かってるけど、彼女としては面白くない。
「もらう時デレデレしちゃってさっ」
「いや、してないだろ」
「してたもん!!」
バカみたい。自分でもそう思うけど、しばらく腹の虫が収まりそうもない。
「お前はくれないのか?」
ふと顔を上げると、大地がふわっと笑っている。
「おモテになる澤村くんには必要ないでしょう?」
嘘。本当は頑張って作ったチョコを渡したかったのに渡すタイミングを失っただけ。けど、こんな事になってしまって、より一層渡しづらくなってしまったのだ。
「俺はひろかからの本命チョコ、楽しみに待ってるんだけどな?」
ずるい。そんな顔で見ないでよ。
私が大地の眉毛を下げて笑う顔が大好きだって分かってやってるんでしょ。
「考えとく…。大地の態度次第かな?」
これくらいの意地悪したっていいよね?
「ほら~、授業始めるぞ!」
教室に先生が入ってきて、大地も席を立った。
「ひろか?」
大地は私の名前を呼んで耳打ちをした。
「・・・好きだぞ」
そう言って自分の席に戻って行く。
ずるい。バカ。大っ嫌い。
席に戻った大地を見ると、耳まで真っ赤になっている。
頭を掻いて、机に伏せるように両肘をついていた。
「…っぷ。ばーか」
あんなに怒っていたのに、たった一言で機嫌が直ってしまうなんて私はなんて単純なんだろう。
TheEnd
「嘘」「意地悪」「耳打ち」