第40章 少年
「そんなもの、何になる」
散々言われてきた言葉だ。
しかし彼にとってその小さな世界は、とても大切で、守るべきものだったのだ。
その小さな世界は、彼の全てだったのだ。
周りからの心無い言葉には慣れないが、それでも彼は、自分の世界を手放さなかった。
少しずつ少しずつ、でも着実に、小さな世界は、大きな世界へと変化していった。
胸を張って
"自分の世界には意義があるのだ"
と言えない自分を恥じながら、涙の1粒すら材料にして、世界を広げていった。
そしてとうとう、小さかった世界は、彼のすべてを包み込み、彼の周りの人までもを包み込んだ。
「そんなもの、何になるんだ」
そう言う人はいなくなり
「素晴らしい」
と、賞賛する者で溢れかえった。
嬉しかった。
それと同時に、悲しかった。
この世の中は、沈黙の中に隠されたデタラメな常識がある。
その常識は、嘘ではないが、絶対的な真実でもない。
今まで自分は、その"常識"から外れることを怖がっていたのかと。
そんなものを怖がって、周りの人間の言う言葉に従っていたのかと。
そうして彼は再び、小さな世界を作り始めた。
また大きな世界となり、彼の周りを包み込む時が来るのなら、この上ない幸せだと。
「そんなもの、何になるんだ」
背中に多く突き刺さる言葉の槍から逃げることなく、一心に受けながら、今日も彼は涙を流し、世界を大きくし続ける。