第7章 *さいしょの一歩。【菅原孝支】
「え…?」
「俺も谷口が好き。」
もう一度菅原に向き合うと、彼はその大きな目でまっすぐに私を見ながらはっきりと告げた。
いつもの冗談を言い合っているときとは違う、真剣だけど優しい目つきに胸が大きく高鳴った。
一歩ずつゆっくりと近づいて来る菅原に、慌てて目をそらしてしまった。
手が届くまであと一歩。そこで菅原は足を止めた。
たったの一歩、それだけ進めば届くのに。
臆病な私は自分からその一歩が踏み出せない。
もしかしたら菅原は冗談で言ったんじゃないかって、そう思ったらまるで鉛がついているみたいに足が重くなる。
「……冗談なんかじゃなくて、ちゃんと本気。俺は谷口のことが好き。」
もう一度告げられた彼の想いに、目の奥がジンと熱くなる。
私の心が読めるのかと疑ってしまうくらい、彼は私の望む言葉を、欲しい言葉をかけてくれる。
「谷口は?」
菅原は、これ以上なにも言わない。急かさずに、ちゃんと私の言葉を待ってくれている。私の一歩を待ってくれている。
進むなら今しかない。
臆病な自分とはここでさよならするんだ。
「…私も、本当は冗談なんかじゃない。菅原が好き。大好きです…!」
「うん、知ってた。」
そらしていた視線をあげると、視界に映ったのは耳まで真っ赤に染めた菅原のいつもの笑顔。
知ってた、なんて言うくせに明らかに安心したようなその顔にまた胸がきゅっとなる。
菅原も私と同じで怖かったんだって思ったら、気が緩んでつい笑ってしまった。
「なっ……なに笑ってんの!?」
「…なんでもない。」
貴方は私の、行く宛のない言葉を受け止めてくれた。
なかなか前に進めない臆病な私にチャンスをくれた。
自分だって恐かったはずなのに、勇気を出して伝えてくれた。
だから今度は私からちゃんと伝えるよ。
これが私の、最初の一歩になるように。
「菅原、ありがと。大好きだよ。」
*end。
→あとがき。