第6章 *君と手をとって【夜久衛輔】
手を繋いで競うなんて微塵も思っていなかった…。
先生方も体育祭実行委員も、私の思いもよらない遊び心をお持ちでいらっしゃるようで。
…だけどさ、手繋いだままハードル跳んだりパン食ったりするのって結構難しくない!?
手離しちゃダメっぽいけど、特別点数に響いたりするのかな…………どうなんだろ
「ちなみに手、離したら失格らしいからな……………離すなよ?」
「なっ……失格!?」
……私が考えてたことを読み取りでもしたのかこの子は。
「っていうか、そんなルールあるって知ってたのによく選手になったね………あ、もしかして私と手繋ぎたかったからとか?」
「ばッ……なんでそうなるんだよ!ほぼお前らが勝手に選んだんだろ!」
ほんの少しからかってやっただけなのにこの返答。
全力で否定する夜久になにか言い返してやろうと思ったけど……まぁ、確かに夜久の言う通りだよね。うん。
「冗談だってば〜………ほらもう私たちの番来ちゃうよ?」
私たちより先に競っていた2年生がちらほらとゴールし始めて、待ちに待った3年生の出番が近づく。
腰を上げてスタート位置につくと、少し遅れて夜久も隣に立つ。
それを確認して「ん、」と左手を差し出すと、夜久も右手を伸ばした。
その手が私の手をあまりにも優しく包むから、少しだけ強く握り返してやった。
私の手はそんなにやわじゃないぞ。
チラリと彼の顔を見ると、緊張でもしてるのかいつもより少しだけ赤みが増しているような気がした。
「………っふふ。」
「何笑ってんのお前。」
「いーや、なんでもない。」
からかいたくなる気持ちを抑えて、目の前に広がるコースを見る。
ちょうど今2年生最後尾の組がゴールしたらしい。
観客の視線がこっちに向けられてるのがわかる。
「よっし、やるからには絶対優勝!」
「もちろんだ!」
もう一度強くお互いの手を握り締めると、スタートを告げるピストルが鳴り響いた。
*END
→あとがき。