第3章 *あめあめふれふれ【及川徹】
「なんでまだ帰ってないの!?雨降るって言ったでしょ!!」
その声の主は勿論、さっき帰ったばかりの及川だった。
「あぁぁちょっと濡れちゃってるじゃん!風邪ひくよ!」
「お、おいかわこそ……なんで帰ってないの!?」
まだ状況が掴めていない私の髪を、いつの間に出したのか自分のタオルで拭いてくれていた及川に問い掛ければ、予想外の答えが返ってきた。
「綾乃ちゃん、傘持ってないでしょ?嘘ついてたのバレバレ。
雨降ってきたからまさかと思って見に来たら、本当にまだ居るんだからビックリした!」
嘘……バレてたのか。
っていうことは、私のこと心配して…?
「あ…ありがとう…ゴザイマス。」
―ほら、また。
及川の前だと不思議と緊張して、目もまともに見れなくて、なんだかふわふわして…変な感じ。
私がそんなことを思っているだなんて考えてもいないだろう。目の前の彼は私の髪を吹き終えて、よしっ!と満足気に声を漏らした。
「あのさ、綾乃ちゃんももう3年生なんだから、もうちょっとしっかりした方がいいよ?
さっきだって何回呼んでも全っ然起きないし、ちょっと目を離したらいつの間にか居なくなってるし…」
―…え?
私は自分の耳を疑った。
何回呼んでも起きない…?ちょっと目を離したら……?
それってつまり………
「ちょっと、聞いてる!?
せっかく眠気覚ましにと思ってコーヒー牛乳も買ってきたのに
「お、及川」
「ん?…………ン!?」
次々と話を進める及川の名前を呼んで遮ると、自分の言っていることがやっと分かったのか、及川は突然バッと自分の顔を片腕で隠し、顔を赤くさせて固まった。
暫くその様子を見ていると、及川は無言のまま顔を隠していた腕を退けて、私をジッと見つめた。それに応えるように私も及川を見つめ、2人の視線が絡まった。
まだ振り続けている大粒の雨。
本当は煩いはずなのに、今日はずっと静かだった。
まるで私達のまわりだけ、時が止まってるみたい。
さっきは、今降らなくても良いって言ったけど…前言撤回。
読書なんてキャラじゃないし、
雨もそんなに好きじゃないけど
たまにはこんな日もいい、かもね―…。
「…あのさ、俺綾乃ちゃんのこと―……
*END