第37章 幻
生い茂る森を駆け抜けて、風間は一人港町に着いていた。辛うじて洋装に変わっていたため、人々が風間に視線を向けることはない……が。やはり彼自身がどうしても目立つのか、町に降りると数人の人には一度振り返られじろじろと見られていた。
そんなことは気にも留めず、海に近い一件の家屋に風間は辿り着いていた。不躾に声もかけず、風間はいきなり家屋の扉を開けた。
「邪魔するぞ」
「……!? あんた、誰よ!?」
「貴様こそなんだ。此処に、志摩子はいるか?」
「志摩子ちゃん……? いないわよ! 残念だけどっ。まさか、あんたが山崎ちゃん達がずっと逃げてきた鬼の敵ってやつ!? 逆にこっちが志摩子ちゃんの居場所を知りたいくらいよ!」
「貴様以外のものの気配がするな、新選組の奴か?」
「負傷者の元には行かせないわよ!?」
ランドンが銃を構える。だが風間は顔色一つ変えず、言葉を続けた。
「俺は志摩子の夫になる男だ。迎えに来るのは当然だろう? いないというのなら、せめて奥にいる奴に話しを聞きたい」
「そんな言葉、アタシが信じられると思う!?」
「信じるも何も、貴様らに志摩子を追う手がかりはない。俺達鬼であれば、あるいは志摩子の居場所を見つけ出せるやもしれんがな。どうする?」
「……っ」
「風間じゃないの、久しぶりだね」
奥から現れたのは沖田だった、身体に包帯を巻いた状態で山崎に支えられていた。