第36章 紅
「総司様……っ」
「久しぶりだね。意外と元気そうで安心したよ。大丈夫?」
「はいっ」
しっかりと沖田は刀を構えると、天と対峙する。天は不愉快そうに薙刀を構え、にやりと笑いかける。
「あれか、あんた以前ボクにボコボコにされた人でしょ?」
「生意気な餓鬼は嫌いだよ。じゃあ、その仕返しに来たって言えばいいのかな? 僕は」
「仕返し? あはははっ! お兄さんがボクを倒すってこと? それはお笑いものだなぁ……覚えてるよね? ボクが人間じゃないことくらい」
「志摩子ちゃん、走って」
「え……っ!?」
「人目に付きすぎるのはまずい」
沖田は志摩子の手を引くと、森の方角へ向け一気に走り出す。天も当然逃がさんとするように、二人を追いかけていく。出来るだけ人目のつかない場所を選びながら、森へと全速力で走る。未だに志摩子にとって、握られている手が嘘のようだ。
まさか今目の前に、沖田が本当にいてくれているなど。幻だと勘違いしてしまってもおかしくないほどだ。走りながら志摩子が顔を上げると、確かに羅刹の姿をしていても沖田本人に間違いはないらしい。
「総司様っ、お元気そうでよかったです……!」
「それ、今言うところ? ははっ、でも本当に志摩子ちゃんに会えたって感じがして凄く嬉しい」
「それにしても、どうして私が此処にいることを知っていたのですか?」
「知っていた……か。松本先生から聞いたんだ。山崎君、何を思ったのか松本先生を通して僕にそれを教えておくようにしていたんだ。もしかして、こういう事態をある程度予測していたのかな」
「山崎様が……」
「流石うちの、自慢の監察方だね」
森の中へ入り込み、少し開けた場所で足を止める。天も追いついたのか、余裕の笑みを張り付けたまま志摩子達へと向き直る。