第5章 4日目
「某は、その時夢に見たのだ」
「夢?」
「誰だか分からぬ、例えるのならば物の怪の様な姿で、おなごのような声をしておった」
この世に見たことがないくらい、威圧感があったのだと幸村はいう。
「それが、『血を与えよ、我の血を』...それだけ呟かれ、某は目を覚ました」
血を与えよ、我の血を。
そう聞いた声に聞き覚えはなかったのだという。
優しい声色ながらも、何故か威圧感が半端なく、それでいて導くようだったとか。
「某は迷う事無く走った。導かれているような気がして、意識が既に飛んでいた佐助を背負い、走った。」
その時佐助は青白い顔をさせて、もう助から無いと絶望された状態だったのだという。
「気が付けば、見覚えのない花畑だった。陽が差し込み、まるでそこだけ空間が違うような。」
「そこに、いたんですか」
「場違いな空気が漂っておった。花畑の真中に、血の海があった」
そこからは殆ど記憶がないのだという。その大量過ぎる血の臭いに頭がやられ、最後に見た景色は己の視界でさえ赤に染まっていた所だったと。
「...次に目が覚めたときは屋敷におった。勿論佐助も横たわっており怪我の一つもなかった」
一体何が、とその時は疑問でしかなかったのだとか。
「それは、幸村達が獣になるのと関係が...」
「ここからは、推測の域だが」
幸村も戦帰り、傷を負っていて致命傷ではないものの安静にしておけとの命もくだっていたらしい。
だがどうしても佐助をどうにかしたくて、あの夢の通りに行き血の海にであった。
最後に見た景色が赤、そこから推測するに佐助も自分もその血の海に落ちてしまったのではないかと。
「それが傷口から入って幸村まで侵食した...ってことですか」
「それしか考えられぬ」
死のうとしても死ねぬ体になり、戦で傷を負っても一日で治ってしまうのだと苦しそうに笑った。
周りの友は消え、変わる景色に置いていかれないように、己の身を知った彼等は森の中に逃げ込んだと。
「...話してくれて、有難う御座いました」
「勝手に話しただけにござるよ」
幸村はそう言って、帰ろうと促してくれた。