第1章 フェイク/プライド
フェイクというものがある。
他人を騙す或いは傷つけないためにつく優しい汚い嘘。
ネット上で、ときにはリアルでもフェイクを使う人が居る。
「ねぇ、この漫画超つまんないんだけど!テンション下がるぅ」
私と話した後の男友達の言葉が、向こうはひそひそしているかもしれないけれど、しっかり耳に入ってくる。
「ここさ、このページ、盛り上がんないの、ここはガツンと行かなきゃね!!だからテンション下がるんだってば」
男友達が尚も続ける。
男友達の友達に向かって。
あははと笑う声。
ふっと後ろを振り向くと男友達と目が合った。
「なんだよ?」
一瞬、険しい顔をしてから普通の友人の装いの顔をする男友達。
知ってる。
今フェイク使ったでしょ。
実は私平成 時音はフェイクを見破れてしまう体質なんだ。
体質っていうか、性質。
今のは、さっきの私との会話がつまんなかったから漫画をけなしているように見せかけて私の愚痴を吐いてるの。
その不機嫌そうな顔と私への視線が何よりの証拠よ。一瞬曇った険しい顔を、私へ向けられた険しい視線を私は見逃さなかった。
フェイク……感度が鋭い人には陰湿なイジメにもなり得るもの。
感度が鈍い人にはただの日常会話としか聞こえないもの。
時には仲間同士で合言葉のようにフェイクを使って別の情報をやり取りしたりもする。
私、人の会話をよく聞いてるから分かる。
こういう、感度の高い私みたいな人がフェイクで合言葉を決めて仲間同士話して分かり合える。
だから私一人ではない。頭の良い人はフェイクを日常的に使ってまんまと周りを出し抜いているだろう。
気づけない人が頭が悪いというわけではない。
気づかない方が正常だ。
気づかない方がいいのだ。
気づく人は感度ビンビンで、そして……
とてつもなく
異常だ。