第3章 白い煙*スモーカー
甲板で葉巻を燻らせていると、足音が一つ。
「スモーカー」
「か。どうした」
「眠れない」
おれの隣に来て海を眺める彼女。
寒いのか、自分で自分を抱きしめるようにしている。
「ほら、こっち来い」
肩を抱き寄せ、コートの中にすっぽり埋める。葉巻の火を消して、その小さいのを抱きしめる。
「あったかいな、スモーカー」
「まぁな」
一言ふたことで終わってしまう会話。だけどそれが心地よい。
「で、なんだ、悩みでもあんのか」
「悩み…ヒナ嬢に、言われた。もっと堂々としてろって。じゃなきゃ取られるって」
「…」
あいつ余計なことを…
「…確かにスモーカーはかっこいいし、私なんかが釣り合う相手じゃない。誰がいつ狙っててもおかしくないんだ。でも」
「…でも?」
「でも、スモーカーのことは私が一番好きだ。誰にも負けるつもりはない。恋愛の駆け引きなんて知らない。だからひたすら好きなんだ。…?よくわからない表現か、これは」
その時、ぐいっと引っ張られ、座り込む形になった。スモーカーの足の間にちょこんと。
「スモーカー、びっくりする」
「…あのな、お前は心配しなくていい。お前が思ってる以上におれはお前に惚れてんだ…自分でも笑っちまうくらいに」
そんなことを耳元で言われたら、さすがの彼女でも赤くなっていた。
「スモーカー…恥ずかしい」
「おれには見せろ、その顔も、どんな顔も全部。他のやつには見せんな」
「なっ…それは難しい…」
「真に受けるな…だが、あながち冗談でもない」
無防備な白い首に舌を這わせる。
「っ!」
「お前はおれのもんだ…誰にもやらねぇから覚悟しとけ」
「スモッんっ!」
の小さい口を食べるようにキスをする。
「スモーカーのキスは、脳が溶けそうになる」
「最上級の褒め言葉だな」
少し笑って頰にキスを落とせば、は眉を下げ、どうしようもなく幸せだというような表情をした。
「さて、寝るか」
「え?ちょ、まっ」
ひょいと抱え上げられる。
「添い寝すりゃ、不安なんで感じてる場合じゃねえだろ?」
「確かに…」
「決まりだな」
を自分の船室に連れて行き、ぎゅうと抱きしめながら眠りについた。