第9章 クリスマスイブ*ロー
朝からはウキウキしていた。何故なら、今日はクリスマスイブだからだ。
「ふふ、クリスマス商戦で炊飯器安く買えるんだ」
「…あんたって本当に色気の欠片もないわね」
「色気より炊飯器がいい」
冬休みに入り、ナミのショッピングに付き合ってカフェで休憩していた時だった。
「今日ローが帰ってきたら行くんだ」
「あら、トラ男君と行くの?」
「一人でいいって言ったのに駄目だって」
ガキ扱いしやがって、とぶつぶつ言いながらカフェラテを飲むを見て、ナミは軽いため息をついた。
「報われるといいわね、トラ男君」
「?」
その後もナミの気になったお店をめぐり倒し、日が傾き始めた頃に別れた。
家に帰ると既にローの靴があった。
「早かったね」
「あぁ。早く終わらした」
「じゃあ行きますか!」
「やたら張り切ってんな…」
ローはコートを着て車の鍵をポッケから出しながら靴を履く。
「炊飯器もいろいろあってな、なんか凄くご飯が美味しく炊けるやつとかあるんだ!」
「そんなに炊飯器が好きなのか?」
玄関を出て鍵をし、駐車場へ向かう途中、ローからの質問にはキョトンとした声を出した。
「え?別に好きじゃないけど、今使ってるのはかなり古いし、それに最新のやつなら今より数倍美味しく炊けるし、ローお米好きだし、一石二鳥」
「……おれ?」
「ローご飯好きでしょ?だから」
当たり前、というようにはローに振り向く。
車に乗り込み、シートベルトをし終わったの頭をローは撫でた。
「…何」
「なんとなくだ」
よくわからないローに眉を寄せるも、別に嫌ではないのでそのまま身を委ねた。
が。
「……Σはっ!!ロー!早く行くぞ!!他のやつに取られるかもしれない!」
「…この日に炊飯器買う奴なんざそんないねぇよ」
「クリスマスイブだぞ⁈全国のお父さんたちは愛する妻のために炊飯器買ってるかもしれないだろ⁈」
「どんな見解だ…。仕方ねぇな、愛するお前のために行くか」
ローはエンジンをかける。
「ローの味噌汁は私が毎朝作ってやる」
「…それは男の方から頼む時に使うセリフだ、アホ」
車内は寒いものの、暖かい空気で満たされていく。
アクセルを踏み、ふたりをのせたくるまは賑やかな街の中へと溶け込んで行った。