第6章 猫と外科医と*ロー
「ローは、甘えんぼさんね」
「うるせぇ」
「手配書はあんななのに」
「…」
夜ベッドに入ったらこの大型犬も入ってきた。
ホールドされているわけだが、どうしてか、かわいいのだ。
「私こうしてもらえるの好きよ」
抱きしめられて寝るなんて幼い頃以来だったから。
懐かしさと、悲しさと、嬉しさが混ざったへんな感情に支配されていた。
「いつでも抱きしめてやる」
「お願いします」
スリ、と顔をローの胸板にさすりつければ、満足そうにフッと笑って髪を梳く。
「お前は猫だな」
「猫…」
「しなやかですり寄ってくるし1人でいようとしたりする。猫だ」
なおも髪を梳くロー。
それが心地よくてだんだんと瞼が重くなって…
「んー…ローの飼い猫なら…なる…」
意識はそこで途切れた。
なんだ、寝たのか?というローの声や、頬にキスされたことを知ることはなかった。
夢を見た。
燃え広がる街。
泣き叫ぶ声、助けを求める声。
私を探し殺せという声ーーー
私はひたすら走った。
海岸線に出た時、何かにぶつかった。
終わりだと思った。
「…どうした」
「……っ」
ぺたんと座り込みガタガタ震える私の前にしゃがんで顔を覗き込んでくる。
それは、ローだった。
「ロー…?なんで…?」
「決まってんだろ、迎えに来た」
ニッと笑って私の頭に手を乗せた。
「安心しろ、お前はおれのもんだ」
そこで目が覚めた。
しんと静まり返る部屋。
燃えてる街も声も聞こえない。
目の前には、死の外科医なんて言葉が似合わなそうな寝顔がある。
夢か…
まだ心臓はドクドクと脈打っている。
ふぅーっと息を吐き、スヤスヤと寝ているローの観察をする。
助けに来てくれた…
夢だけど。
私の単なる妄想なのか…
それとも…