第16章 間違い
「え?」
別れる…って言った?
「これから大事な時期ですし…」
「そんなの言われなくてもわかってる!」
私は彼の言葉をさえぎる。
「知ってるよ? 私だってそうだから。私だって大事な時期なの。だから2人で頑張ればいいでしょ? 今までそうしてきたんだから…」
「怖いんです」
彼がボソッとつぶやく。
「こわい…?」
「溺れてしまいそうで…」
「……。大丈夫」
私は彼の腕をつかむ。
彼が少し顔を上げる。
「助けてあげる。私が。溺れてしまわないように」
私は彼の目を見つめる。
彼は目をそらす。
「優子さんには無理です」
「……」
私の目に涙があふれる。
確かにそうかもしれない。
無理かもしれない。
でも…
「そんなのおかしいよ…。結婚するんじゃないの? 約束したのに。約束したのに…」
涙がボロボロこぼれる。
「だっておかしいよ? 結婚するから…結婚するから、それまでそういうことしないでおこうって…
それで…それでずっとガマンしてきたのに。
それなのに、それが原因で別れるなんておかしいから!」
私は泣きじゃくりながら、彼に訴えかける。
彼はじっと話を聞いてる…
と思う。
彼が口を開く。
「優子さんは女の子だから」
「……えっ?」
「優子さんは女の子だから、そう思うんですよ。
もし何か失敗したとしても結婚してしまえば大丈夫って…。
でも僕は男だから。
この大事な時期に、気の迷いで一生を棒に振るわけにはいかないんです」
「……」
雅樹くんの言ってることおかしいと思うし、反論したいけど…
私にはもうその気力がなくなった。
「うん、わかった」
私は頷いた。