第7章 過去
私は9歳の時捨て子だった。
しかも、9歳より前の記憶が無く
両親のことは全く分からなかった。
ただ1つの手がかりは私の
付けていたネックレスだったが、
どうにも手の打ちようが無かった。
私はテド村のリーレノという
優しいおじいさんに拾われ、
毎日楽しく暮らしていた。
リーレノは大柄な人で、
温かい笑顔を常に浮かべていた。
とても60歳には見えない元気な
おじいさんで、
家族のいない私のことを本当の孫のように
扱ってくれた。
また、リーレノも奥さんをずっと前に亡くして
家族はいなかったから、
むしろ私が住むことを喜んでくれた。
そんなリーレノを、私は
本当に本当に大好きだった。
リーレノに拾われて、
11歳になった頃のある日。
私は村の小さな森へ行ってきた。
「リーおじいちゃ~ん!!
見てみて、野イチゴだよっ!」
かごいっぱいに野イチゴを摘み、
元気いっぱいに家へ帰る。
ドアを威勢良く開けて入ると、
いつもは窓際で本を読んでいる
リーレノがいなかった。
「おじいちゃん?
.......お出かけしてるのかな~?」
野イチゴのかごを机に置き、
家の中を探した。
リーレノは、寝室のベットので
寝ていた。
「おじいちゃ~んっ!
何で寝てるの??具合悪い?」
覗き込んで呼び掛けても、
リーレノは返事をしない。
ゆすってみても起きない。
困った私は、
隣の家のおばさんを呼びに行った。
おばさんは、お医者さんでもあった。
「おばさーん!」
「あら****ちゃん。どうしたの?」
「リーおじいちゃんの具合が悪くて、
全然起きないの。ちょっと来て!」
おばさんはすぐにリーレノのところへ
行ってくれた。
リーレノを診たおばさんは、
「ああ...なんてこと。
リーレノ、まさかあんたが...」
口に手を当てて、
悲しげに呟いた。
「おばさん?おじいちゃん悪いの?」
問いかけた私を見下ろして、
おばさんは顔を歪めた。
「リーレノ...この子をどうするんだい...」
「おばさん?」
おばさんは私をぎゅっと抱き締めた。
その時、私は悟った。
...リーレノが死んだ、と。
涙が溢れた。
「おばさっ...私....リーおじいちゃ...」
「何も言わないで。
思う存分泣きなさい。」
おばさんも涙声だった。