第26章 君の行方
セシリアが出ていった後、
ファニーはそっとため息を吐いた。
ネグリジェの胸元を広げれば、
そこに蠢くのは不気味なアザ。
「まだ.....まだ、無理だ」
毒が抜けきるのはいつだろう。
不安になって、膝を抱える。
「会いたい.......会いたいよ、
.....................ラビ」
ファニー...リランは、ぼそっと呟いた。
あの時、自分でも何故生きているのか
分からなかった。
目を覚ましたらここにいて、
セシリアがいたのだ。
― セシリアにしても...。
一瞬、ネイかと思った。
金髪に碧眼。
顔をよく見れば別人だけど、
雰囲気があまりにも似ている。
起きた時は大パニックだったものだ。
私が倒れていたのは、海辺だったらしい。
見つけてくれたのはこの店の娘で、
人魚と間違えたと聞かされた。
とは言っても、
「人魚がいるの?」
と聞いたら
「いるわけないものがいたかと
思ってびっくりしたのよ!」
と返された。
アザに関しては私が誤魔化した。
呪いを受けていて、毒があるから
あまり近寄るな、と。
あながち間違いでもない。
「アクマの毒.......。
歌姫の力を殺す呪い、か」
あの時、ティキはこう言った。
「今リランの胸に入れたのは、
特別製のアクマウイルスだ。
それは、じわじわリランを殺すだけじゃなくて、
同時に歌姫の力も殺す。
ほとんど起きない奇跡だけど...
もし、君の命より先に歌姫の力が消えたら、
助かるかもね?」
「ああ、教団にはいられないと思うぜ。
奏者の近くにいたら、歌姫の力が暴走して
その場にいる人間皆殺しになるから」
ティキは嘘をついていないだろう。
最後まで、申し訳なさそうな目をしてたから。
それに、自分の命の残量が
減っていくのは実感として味わっている。
耐え難い恐怖だ。
もしかしたら、もう二度と
ラビやみんなに会えないかもしれないから。
「それでも、それでも.......。
私は生き延びる。
頑張るよ、私。でも...」
再び膝を抱えた。
唯一残っていた、クローバーの
チャームを握りしめる。
「お願いアレン、私を見つけないで」