第21章 壊れる
~ティキサイド~
全身を強ばらせて、
引き絞った矢のようなリランを
俺は苦もなく押さえ付けていた。
この手を離せば、
即座に村へ飛んでいくだろう。
村を見ていて俺には見えない顔が
どんな表情を浮かべているのか、
想像に難くない。
― さて、ロードは今どこら辺かな?
そう思って村を見やったとき、
「.......う」
それまで叫ぶか黙るか、
しかしなかったリランが何事か呟いた。
耳を澄ます。
「...発動。イノセンス発動...発動...」
「無駄だよ」
イノセンスを発動しようとしているらしい。
無理に決まっている。
彼女のイノセンスは俺が半壊させた。
「発動...発動っ!」
俺の言葉を無視し、一際強く言う。
すると、辺りの空気中に
青色の光がふわぁと広がった。
「なっ...!?」
光がリランの体にまとわりつく。
― まさか、発動できたのか...!?
驚愕したとき、光は一気に霧散した。
空気中を浮遊はしているが、
発動には至らないようだ。
一安心した俺は、突然腕にかかった体重を
咄嗟に支えきれなかった。
「おいおい...大丈夫?」
「どうして.......発動してよ...」
俺の体にもたれていることにすら
気付いていないリラン。
― そろそろ壊れ時かな.......
複雑な思いで少女を支える。
乾き、虚ろになった瞳は
炎に照らされて紅く輝いていた。