第19章 過去のトラウマ
~アレンサイド~
リランが食堂から逃げ出した。
呼び止める間もなく姿が消える。
食堂にざわめきが戻ってきた。
「おい、何だ今の.......」
「突然何だ?」
「ノアの娘が逃げたぞ...?」
人々の囁きに、舌打ちする。
胸元を掴んだままのラビに、
僕は顔を近付けた。
「どういうつもりですか、ラビ。
リランを傷付けて」
ラビは打たれた頬を押さえたまま、
途方に暮れたような顔で僕を見上げた。
「違うんさ.......無理してないかって
言ったつもりだったんさ。
傷付けるつもりはこれっぽっちも
無かったのに..........」
「何してんだよお前ら」
ラビの言葉にリーバー班長の声が被る。
僕はラビの胸元から手を離した。
事情を説明すると、
リーバー班長はため息をついて
頭をかいた。
「おいおい...大変なことになってんな~....」
ラビはすっかり消沈した様子で
椅子に座り込んでいる。
「にしてもノアの娘か...。
ひでぇなあ、おい」
「本当に...リランが可哀想ですよ。
傷付いてるのに強がって。
しかもトドメを指したのラビですからね?
こンのバカうさぎ!」
ポカリとラビを殴る。
「返す言葉もありません.......」
更に落ち込むラビを、
僕は仁王立ちでどやしつけた。
「大体、何こんなとこでうじうじしてるんですか!
女性を泣かせたなら責任持って
慰めるんです!!」
「わ、分かったさ~.......」
「分かったんならさっさと追いかけやがれ
このバカーーーーーー!!!!」
ひぇー、と食堂から走り出すラビを
鼻息荒く見送る。
後ろ姿が角を曲がり見えなくなると、
鼻を鳴らして腕を組んだ。
「全く.......。
本当にバカですよ」
「そうだな」
やり取りを呆気に取られて見ていた
リーバー班長が頷く。
「なるべく、誤解を解く努力はする。
すまねぇが、それまでリランを
見てやってくれないか」
まるで父か兄のようなセリフに、
僕は吹き出した。
「大丈夫ですよ。
リランの笑顔は僕らが守ります」
「ああ、頼むよ」
手を振って班長と別れた僕は、
鍛練のために修練場へ向かった。