第19章 過去のトラウマ
私の傷が、完治した。
じーっと寝ていたのが良かったのか、
5日で治ってくれたのだ。
「ふー、やぁっと体動かせる~!
絶対なまってるから、
鍛練がんばらないとー!」
食堂で拳を突き上げたら、
人込みからクスクスと笑い声があがった。
むっとして笑った人々を見ると、
すぐに視線を逸らされ、
足早に去っていく。
気まずい雰囲気でそろそろと
拳を下ろし、ため息をついた。
「気にしない方が良いさ」
焼肉定食を食べていたラビが、
気遣うようにそう言ってくれた。
その隣で大量のご飯を
かきこんでいたアレンが、
うんうんと首を縦に振る。
アレンが食べているご飯は、
横目で確認するだけで
20品はありそうだ。
私の前にはナポリタンと
山盛りチキン。
チキンは、病み上がりだからと
ジェリーが付けてくれたものだった。
「そうは言っても.......。
結構キツイなぁ~..........」
さっきからチラチラ向けられる視線。
中には、敵意を含んだ視線もある。
私が、ノアの...ロードの血を濃く引く
人間であり、元々は
ノアの一族のものだった力を
持っているという話は、
教団中に知れ渡っていた。
そもそも、教団にいる人間ほど
自分たちも『ノアの遺伝子を持っている』ことを
忘れているものだ。
― 敵であるノアの血を引く娘。
ほとんどの人間の、共通の認識だ。
ノアの方舟を操るアレンよりも、
向けられる敵意は大きかった。
― どうして.......。
唇を噛む。
歯痒くてしょうがなかった。
「力を持つ者は、誤解を招きやすい。
君が敵ではないことは、
僕達はよく知っている。
でもね、この組織は大きいんだ。
全ての人間が君のことを理解してる訳じゃない。
責めないで欲しい.......。
彼らも、不安なんだ」
コムイさんには、そう言われた。
「そんなこと、分かってるよ.......」
俯いた私は、涙が溢れないよう
目元に力を込めた。
― イノセンスに、音を遮断する
能力があれば良かったのに。
そうすれば、「ノアの娘」「ノアのスパイ」
「敵」―――。
そんな言葉が聞こえなくなるのに。