第6章 その6.深入りしてはいけません
「…先輩、私久しぶりにめげてます。」
「なんでよ、」
「柚希ちゃん、凄くいい子です。」
「だから、何。」
「ミジンコに勝ち目なんかあるわけないです。」
「そう?」
なんだか良くわからないが、二人には離れられない理由があって、そこに私の入る隙は無くて、大野さんには「関係ない」と線を引かれた。
くじけないわけがありません。
少しの間が開いて、二宮先輩がボソボソと話始めた。
「俺は蝶々より、存在すら不思議なミジンコの方が興味沸くけど。」
俯く私に二宮先輩は珍しく優しい言葉をくれた。なんだろう、先輩らしくない。目を合わせてくれないってことはきっと…、
「………それ、慰めてます?」
「調子のんなよ、犬、下僕、誰の許可とって大野さんのぬいぐるみになろうとしてんだ、ハゲ。」
「は、はははははげ。」
ひどい!まだはげてないのに!平気で嘘つく!
「ふふっ、ほら、行きますよ私の従順な犬なんでしょ?」
そんなこと、一体誰が決めたんですか。
泣きそうだった私の手を引いて、さっき勢いよく1人で走ってきた道を二宮先輩と2人で歩く。
二宮先輩の手は冷たかった。
嘘だ、そんなはずはない。
手が暖かい人は心が冷たいというけれど、
二宮先輩の心が暖かいなんて、
あるはずがない。