第1章 今という、この時に笑え 曇天火 学パロ甘
曇天の下
廊下の窓から見える景色は今にも雨が降りそう
それは何も持たない私の心だ
けれど私は今日、太陽に出会ったんだ
-今日という、この時に笑え-
教科書を持って窓の外を見つめる
透明なガラスに手を映すと半透明な手が映る
向こう側にいる私は、もう一人の私
向こう側の私は、いつも元気に笑っているのだろうか
ほら鏡に映る時だけ笑った顔をする
人を前にするとぎこちなくなってしまう私の味方は唯一鏡だ
鏡は嘘を言わないし笑顔の練習に付き合ってくれる
「あれ、お前何してんの?」
鏡に夢中になっていると後ろで声がする
ビクリと身体が震えて驚いたまま振り返る私
心臓がバクバクいって鳴り止まない
しかし声をかけられることも珍しいこの私が、まさか先輩であり皆の人気者である方に話しかけられるとは夢でも見ているのだろうかと思った
「…何でもありません」
男の人は苦手だ。特に皆に囲まれて騒がれているお調子者は特に。話しかけられただけで馬鹿にされたような気持ちになる
だから笑いもせずに先輩に冷たく言い切った
きっとこうすれば男は嫌になり嘲笑い遠ざかる
私の知る男子学生とはそんなものだった
「おー…怒ってんの?まさか。そんなに怖い顔してよ」
もう行ってしまうかと思えば、その先輩はキョトンとして私に言い返してきた
それにしても私に二度も話しかけてくるなんて変わり者だなと思いながら突き放そうとして次の言葉を返した
「いつものことです。先輩、私に構っててもいいことありませんよ」
私はそう返すと再び窓の方を向く
窓の外に見える校庭は何もない茶色と白線で埋めつくされていた
私の人生には何もない
寂しい空間を見ていると自分を連想してしまって、どうしようもない
そんな時
「今日、曇ってるな」
急に両肩が少し重くなったのだった
それが先輩の手であるということが分かった
服越しなのに温もりが伝わる
こんなに温かいものを私は初めて感じた
優しいトーンが頭上で言う、何だかなんとも言えない気持ちになる
「俺の先祖はよ。曇天の下で暮らしてたらしいんだよな。なんでも化け物が現れたせいなんだと。それでもよ、どんな状況でも笑っていたらしんだ。笑えばどんな時でも頑張れる。辛くても悲しくても…そんなだからなのか知らねーが」
この人は曇天火先輩。
高等部3年で私の一つ上の学年だ