第1章 満月
「くそっ…!」
埃っぽい部屋に響く自分の声を耳にしながら、力任せにダンッと壁に爪を立てる。
壁紙が俺の鋭い爪によって削られていくのを感じながら、その場にズルズルと座り込んだ。
「はっ…はっ…」
肩で荒い息を繰り返しながら蹲り、窓の外に視線を移す。
暗い部屋の中に射し込む満月の光。
月光が指先の鋭い爪に反射する。
こいつのせいだっ…!
こいつのせいで俺の飢えがふつふつと沸き上がる。
ギリっと唇を噛みしめる口から覗く牙は、きっと長年使っていなくとも一寸の曇りもないだろう。
シャッ…!
光が当たらない様にぐっと手に力を入れてカーテンを閉め、そのまま俺は力無くベッドに倒れ込んだ。
硬く冷たいシーツ。
「はあっ…くそっ…」
月の光はもう届かない。
それでも満月の光は逃がさないとでも言うかの如く、じわじわと俺の飢えを煽っていく。
襲ってくる飢えから逃れるために、自分の手のひらに牙を突き立て、そこから溢れた血を口にする。
鉄の錆びた味。
「自分の血じゃ…飢えは満たされねぇ…か…はっ…」
口内に残る嫌な味でも、さっきより幾分かは気持ちが楽になった。
この俺様が血に飢えているなんて…笑える。
「なっ…さけね……!」
そう自分を自嘲しても飢えは収まることを知らないのだ。