第1章 日常へのちょっとした変化
・・・ような気がしていたのに
「いや、別に」
スッとさっきの気持ちがどこかへ行ってしまった気がする。
・・・別に?いやいや、笑ってたよね。てか今も笑ってるよね、若干。隠せてないよ、ってかそもそも隠そうともしてないよね?
「・・・そ、そうですか」
ここで言い返せないヘタレな私。いわゆる人見知り。別に悪いことをした訳でもないのに、こうして黙って俯くことしか出来ない私は本当惨めだと思う。そして俯いた為に丁度いい視線の先にいる陽太。
ねぇ陽太、何であなたも笑ってるの?もしかして意味分かってるの?お兄さんと意思疎通してるの?それともその場の雰囲気で何となく・・・?
「藤高(ふじこう)、ですよね」
「え・・・」
「藤栄(ふじえい)高校」
突然聞かれてビックリした。確かに制服も着てるし、通ってる高校は一応私立だけど、まさかこんな名門校の人が私の高校を知っているなんて。何より、こんな風に自然に話しかけてくれることに驚いた。
「弟が来年から通うんで」
「あ・・・なるほど」
「ゆーにぃ、サッカーじょうずなんだよ!」
「そうなんだ・・・ってことは、サッカー部に?」
頷く彼を見てますます納得した。私の通う高校はサッカーにかなり力を入れていて、部員数は全部活動の中で断然多いし、サッカーを目的として入学してくる生徒も多い。・・・と言っても、私はこのことを入学するまで知らなかったのだけれど。
「陽太のお兄ちゃん凄いね。頑張ってって伝えてね」
陽太に目線を合わせてそう言うと、うん!と嬉しそうに笑った。そんな陽太につられて私も笑っていると、それを見ていた陽太のお兄さんが少し驚いた表情を見せた。そして彼は穏やかな顔で陽太の頭を撫で、それに反応した陽太が彼を見上げて、笑った。