第1章 プロローグ
土曜の夜、私は教会に行く。
特別な信心があるわけではない。
ただまっすぐ部屋に帰りたくないだけ。
明日は休み。でもどこに行くわけでも、誰に会うということもない。
そんなとき教会の扉は開かれていた。
花街のはずれにあるこの教会は、どんな時間でもどんな人でも迎え入れてくれる。
教会の暖かい光の中、祭壇やステンドグラスをしばらく眺める。
それだけで一人の部屋に帰る寂しさが、ほんの少しだけまぎれる気がした。
いつものように教会の扉をくぐると、祭壇の前に人が立っていた。
黒いロングコートのポケットに手を入れてただ立っている。
金色の髪、背の高い……男の人。
この時間に人がいるなんてめずらしい。やっぱり私と同じような目的の人かな。
私の気配に気づいたからか用が終わったからか、彼は入り口に向かって歩いてきた。
こんばんは、と私が声をかけると、彼は瞳だけこちらに向けて微笑んだ。
とてもきれいな緑色の瞳で。
私は祭壇に手を合わせた。
教会に通うようになって初めてのお祈り。
「もう一度、彼に会えますように」