第26章 Exclusive Love.(井伊直政)
初耳だった。
師である半蔵からは明日から井伊家の忍だと、それはもう簡潔に伝えられていただけだった。
直政が家康に頼み込んだなど知る由もなかった。
「何故…なのですか」
真っ直ぐに直政を見つめては問う。
「ダメだ、ダメすぎる…考えればわかるだろ」
掴まれたままの腕を引き寄せられて直政の腕の中に収まる。
考えても考えても思考が追い付かない。
何故、自分は直政様に抱き締められているのだろう。
何故、直政様は熱の籠った目で私を見るのだろう。
何故、こんな未熟な私を側に置いて下さるのだろう。
「、俺もお前が大切だ」
たくさんの『何故』の答え。
言葉の後、一呼吸置いて唇が寄せられる。
「お、お待ちください…!直政様…!///」
「……………なんだ」
気分も高まり唇が重なろうとした瞬間、の待ったがかかった。
「ほ、他の姫君様にも…その、このような事を…?」
「ハァ?!ダメだ、ダメすぎる!そんな事あるわけないだろう!」
「ですが…!他の方に、綺麗だとお言葉を…」
の言葉に直政は不思議そうに首を傾げた。
「綺麗なものは綺麗だろう、それが物でも人でも」
「…………」
今なら信之の言っていた事がわかる。
天然タラシとはこの事を言うのだ。
「だが、側に置きたいと思うのも傷を作っていないかと心配になるのもお前だけだ」
「!!」
あぁ、この方には敵わない。
「もう良いだろう、いつまで待たせるつもりだ」
「え、あ…っ!直政様っ…//」
の制止も最早意味を持たない。
「んんっ…!」
熱い口付けは硬くなった心を溶かし、強張った体から力を奪う。
「俺に言えない事…もうないな?」
「……っ、はい…」
口付けの合間に交わされた言葉。
の返事に満足気に直政は笑った。
そして再び唇が重なる。
「俺はお前を手放すつもりはない」
「……はい」
井伊家の当主と一介の忍。
先の未来で結ばれる事など許されないとわかっている。
でも、それでも今だけは。
この温もりを感じられる幸せを。
三度目の口付けを受け入れようとは静かに瞳を閉じた。
END