第22章 桜(伊達政宗)
「政宗様、やはり此方でしたか」
「…小十郎」
「………もう五年、早いものです」
「…あぁ」
五年も経つと城内での事を語る者は殆んど居らぬ。
覚えているのはわしと小十郎くらいではないだろうか。
「この五年、無我夢中で戦ってこられましたね」
「そう見えたか」
「…失礼ながら」
「そうか」
戦う事で気を紛らわせて居た事は嘘ではない。
ただ小十郎にはわしの中にあったへの秘めたる想いも見抜いておったのだろうな。
“政宗様…は政宗様にお仕え出来て幸せに御座います”
目を閉じると未だ色褪せぬの声。
そして笑った顔が脳裏にハッキリと浮かぶ。
“はこの奥州が大好きに御座います!”
「もっとこの奥州を良い地にせねばなるまいな」
「えぇ、もちろんで御座います」
見上げると視界いっぱいに拡がる薄紅色に向かい話し掛ける。
「お前もそう思わぬか、」
先程と同じ様に花びらが一片ゆっくりとわしに向かってゆらゆらと落ちてくる。
また右手を伸ばし待ち構えると今度は掌でそっと受け止められた。
重さなどまるで感じぬそれは、とても儚い。
「そうか、お前も同じ様に思うてくれるか」
花びらが掌に乗った事、それがまるで同意に思えた。
「また来年此処で語らおうぞ、」
「政宗様…」
「小十郎、わしは天駆ける竜となるぞ!」
「お供致します」
さすれば…天に居るお前をもっと近くに感じられよう。
わしが天に手が届くまで暫し待っておれよ。
「わしは必ずやなってみせる」
の好きだったこの奥州の地で、必ず。
END