第21章 風(真田幸村)
「此処に居てはくれぬか」
ふいに腕を引かれ、温かな貴方の腕の中に引き込まれる。
耳元で聞こえた心地良い声。
「幸村様…言った筈です、私は雇われの忍」
「………」
「また次の主を探します」
強く強く抱き締められる。
私達の間には桜の花びらも入り込めない程に。
この温かさに包まれていたくなってしまう前に離れなくては。
貴方の元を去らなくては。
「幸村様、私も貴方を……」
その後に続く言葉は飲み込んだ。
貴方への想いは口には出さない、私の中にある。
それでいい。
「…某は…!」
幸村様の言葉を全て聞く前に腕の中からすり抜ける。
桜の花びらへと、姿を変えて。
「大きな戦で…また会えましょう、それまで花となり貴方の側に」
「!!」
風が吹けば貴方に香りを届け、
雨に濡れれば貴方の心を癒し、
陽を浴びれば凛と立ち貴方の背中を押しましょう。
貴方が空を仰いだのを見届けてその場を立ち去る。
「幸村」
「…兄上」
「は…行ってしまったか」
「私の想いは届かなかったのでしょうか…」
「そうではないだろう…見ろ」
「これは……」
花となり、貴方の側に。
桜の花を一輪貴方の胸に残した。
私の想いを託して。
END.