第19章 horizon.(片倉小十郎)
「政宗兄様!の舞いを見てくださいませ、修練を積んで以前よりも…」
「すまぬ、わしはこれから出掛けねばならぬ」
「あ…左様、でございますか…ならば……仕方がないですね………」
兄である政宗を敬愛して止まない妹、は姫君としての様々な稽古事の合間をみては政宗の元を訪れる。
以前はまだまともに踊れない舞いにも、綺麗な音の出ない笛にも付き合ってくれた兄だったが…このところはそんな時間が殆んど取れていない。
「、この間の様に寝ずにわしを待つでないぞ!わしは今夜は帰らぬからな」
「…お戻りになられないのですか」
「あぁ、小十郎!に無茶をさせるでないぞ!」
「…畏まりました」
小十郎にそう言いつけると政宗は足早にその場を立ち去った。
先日、政宗が城に戻らなかった際には一晩中政宗を待っていた。
春とは言え、まだ雪の残る奥州。の体調を案じて同じ事にならぬよう政宗は釘を指したのだ。
兄の背中を切なげに見送るは、視線はそのままに側に控えている小十郎に問い掛けた。
「小十郎…お兄様はどちらへ…?」
「奥方様の御殿に参られるのでございます」
「あ…あぁ、そうですか…そうですよね」
戻らぬと言ったのだから当然かと、は静かに納得し睫毛を揺らした。
「…部屋に戻ります」
「御茶をお運び致しましょうか?」
「いいえ…いらないわ」
「……………」
先程まで政宗と話していた時とはまるで表情が違う。
あんなに花のように笑っていたのに、今は氷のようなの表情。
小十郎はこの姫君に密かに好意を抱いていた。
もちろん小十郎が周りの人間に話すわけがないし、うっかりバレてしまうようなヘマもする筈がない。
ただの世界が全て政宗中心に回っている、その事はあまり面白くはなかった。
兄とは言え、他の男に振り回されているの姿は見るに耐えない。