第18章 You're the one for me ~second~
この国が好きだ。
魚も旨い、米も旨い。
民にも活気がある。
民が元気だから国が栄える。
若くして領地を任されたこの若武者はこう思っていた。
父、家久が豊久に遺した教え。
「豊久様!今日も良い魚が揚がってますよ!」
「うちの野菜も今朝収穫したばかりでさぁ、持っていって下され!」
「野菜も魚も立派だな!後で使いを寄越すよ!」
豊久はこうして城下の村をよく訪ねる。
民と気さくに話し、関わり合う豊久に民達もまた親しみを感じていた。
ふと、豊久は思い出したように村人達に話を振る。
「なぁ…皆、このあいだの歌姫…覚えてるか?」
「歌姫…あぁ!あの別嬪さん!」
「なんでも最近家が山賊に襲われたとか…」
「山賊に…?!」
村人の答えに豊久は目を見開いた。
家臣から近頃山賊の良くない話は聞いていたが、思った以上に近い場所での事に驚いていた。
「家族も亡くしたらしいしなぁ…」
「それに喋れなくなっちまったって聞いてますよ、あんなに綺麗な声してたのに可哀想になぁ…」
「…!?」
豊久の頭の中にあの川で出会ったの顔が浮かんだ。
悲しげと言うべきか、儚げと言うべきか。
彼女が見せた顔の意味が漸くわかった。
『御免なさい』
「だから、あの時…石に…」
話せなかった事をきっと自分に謝っていたのだろう。
それでも、思わずにはいられない。
もう一度、あの歌声が聴きたい。