第16章 You're the one for me ~First~
「♪~♪♪~♪~」
彼女が歌うと自然と小鳥が集まり呼応するかのように舞い歌う。
その場の空気も澄み渡っていく。
「いけない、水を汲みに来たんだった」
川のせせらぎに合わせて歌っていた彼女はここに来た目的を思い出し歌うことを止める。
気付いた小鳥たちは不思議そうにソワソワと動いていた。
「ごめんね、また今度一緒に歌おうね」
桶に水を汲んだ彼女は足早にその場を後にした。
小鳥たちはその背中を名残惜しそうに見つめ、森へと帰っていった。
彼女の名は。
家族で旅をしながらの歌を披露する一座だった。
優しい両親、綺麗な姉、頼れる兄に囲まれ大好きな歌を歌える、はとても幸せだった。
「九州の生活にも大分慣れたけど…また旅に出るのかな?」
四国から九州に渡って早ひと月。
のどかで人も温かいこの地がはとても気に入っていた。
しかし、
そんなささやかな幸せが突如奪われる事になる。
「…ちゃんっ!此処に居たか!家が…家が…大変だ!」
家へ向かう畑道に出たところで近所に住む農夫が駆け寄ってきた。
「おじさん、どうしたの?家…?」
「ちゃんとこの家から…火が出てんだっ!」
「…っ!!」
家の方角を見ると真っ黒な煙が空へ立ち込めていた。
カランッ
水の入った桶を地面に放り投げは家へと走った。
誰か間違いだと言って。
どうか皆無事ていて。
その思いではひたすら走った。
「父様!母様!!姉様!!兄様…!」
燃えているのは間違いなく自分の家。
「嫌…!」
燃えている家に飛び込もうとするを追い掛けてきた農夫や他の近所の人達が押さえ付ける。
「ちゃん!危ねぇ!」
「離してっ…おじさん!父様達が……!」
炎は黒い煙と共に瞬く間に家全体を包んだ。