第14章 will be there~恋心~(森蘭丸)
もしもこの想いがあの人に届くのなら
今の自分から変われるだろうか。
あの人が自分の想いに気付いてしまったら
関係は変わってしまうだろうか。
想いは募るばかりで毎夜貴女の居室を見つめては剣を振る。
「……っは!……やぁっ!」
今日は部屋に灯りがない。
どちらかへ出向かれていられるのだろうか…。
「………」
…集中しろ、こんな剣では何も守れない。
「蘭…?」
「……!」
突如呼ばれて振り返ればそこには焦がれてやまない人の姿。
「姫様…っ!」
「蘭は…毎晩ここで鍛練を積んでいるのですか?」
「は、はい…、姫様こそこのような時間に供も連れず…!危険でございます!」
「大丈夫ですよ、お兄様もいらっしゃるし…時々こうして一人で歩いて考え事をするの…それに何かあっても守ってくれると昔約束したでしょう?蘭」
「…はい、姫様///」
綺麗な微笑みが自分に向けられている。
それだけで堪らなく嬉しい。
姫様は信長様の妹君で歳は自分の2つ上になる。
幼少の頃は今のように身分など気にせずに思ったことを伝え合える間柄だったのに。
毎日のように姫様が好きだの、守るだの胸を張って言っていたのに。
いつから言えなくなってしまったのだろうか。
それでも姫様は蘭の言葉をずっと信じて下さっている。
「そうだ、蘭」
「はい」
「これを貴方に…私が編みました」
「これは…」
鮮やかな萌木色の髪紐が目の前に差し出される。
「姫様が蘭に…下さるのですか?」
「少し不格好だけれど…貰ってくれるかしら」
「…良いのですか、蘭が頂いても」
目を伏せると手を取られ髪紐を握らされる。
絹のように滑らかな手に触れて、顔に熱が集まるのがわかった。
「蘭の為に編んだのです、蘭に貰ってもらわなければ意味がありません」
「姫様…//」
「それに今の髪紐はだいぶ草臥れているでしょう?」
「…ありがとうございます、姫様」
心に火が灯ったように温かい気持ちになる。
信長様の為なら命も捨てられると思う反面、姫様との約束の為に生き延びたいという思いも強くなる。