第10章 君と僕の季節(石田三成)
「…?」
三成の前で泣いたことなんてなかったのに。
心配かけるから、面倒だと思われるから嫌なのに。
涙が、止まらない。
顔を手で覆う。
「お前…泣いて……」
「来ないで!!」
大きな声で叫ぶ。
一度溢れ出した気持ちはもう自分でも止められなかった。
「そんなの纏ったまま来ないでよ!そんな知らないお香の匂い嫌!…三成…知らない人みたいでやだよ…遠くに行っちゃわないで…」
「……………………」
三成はそんな私の様子を見ておもむろに小川へと近付いていく。
そのまま躊躇いもなく小川へと入っていってしまった。
「三成っ?!…危ないよ!何を…!」
そのまま腰まで水に浸かった三成はザブンと頭まで潜ってしまった。
夜の小川は暗くて三成が見えなくなってしまう。
怖い、いやだ。
「三成っ…!」
追い掛けて私も川に入る。
冷たい水にも足を止めず進み続けた。
膝丈ほどまで進んだところで三成が顔を出した。
濡れた髪を掻き上げ、強い眼差しを向けたまま私に近付き抱き寄せた。
「三成っ…?!」
「これで…良いだろう」
「え?……あ…」
さっきまでと違う、お香の香りが消えていた。
「秀吉様に付いて…女と酒を飲んだのは認めるが、それだけだ」
「…うん」
「会えぬ時でも俺はお前を想っている…昔からずっとだ」
つぅっと三成の顔を流れる水、そんな姿が綺麗で固まってしまう。
「遠くになど行くわけなかろう、この世は、が居てこそ…なのだよ」
「私も三成がいないのが一番やだ…傍に居たいの……」
「それが当たり前だろう、昔から…」
「……ぁ」
会話が途切れた一瞬、目が合って…
そのままゆっくり唇が重なった。
「春の花も夏の星も、秋の夕日も冬の雪も…お前がおらぬと色が消える」
「三成…」
「味気ない世はつまらぬ……だからずっと傍にいろ」
「……うんっ!」
素直じゃない言い方、三成らしくて…嬉しかった。
川の冷たさもはね飛ばすくらい温かい気持ちになれた。
次は私から、素直に気持ちを伝えなきゃ。
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君と僕の季節/ケツメイシ
(こうなるとちょっと思ったんだー!まだ熱ありそうだね)
(うるさい…なぜお前は風邪を引かぬのだ……)
(へへへー!)