第10章 君と僕の季節(石田三成)
三成と私の関係は友達とも恋人とも言えない、そんな曖昧なものだった。
傍にいないと寂しいと思うのに、それを口にすることは絶対にない。
幼い時、一緒に寺から秀吉様に連れて来ていただいたとは言え、三成は今や秀吉様の直接の力になれる参謀。
私は、ただの女中に過ぎない。
「はぁ…」
こんなんじゃいつまで経っても私の気持ちなんて伝えられないよ…。
夕食のあと城の外にある小川へ向かった。
小川に来ると小さかった頃三成と遊んだ記憶が甦る。
「あの頃は楽しかったなぁ…私のが強かったし」
竹刀で稽古をするといつも私が勝っていた。
笑い合い、競い合い、同じものを見て同じように感じる。
それが嬉しくて幸せだった。
今は違うものを見てる気がして、寂しい。
「三成の、馬鹿…」
しゃがんだまま、足元の小石を川に投げる。
ポチャリ。
ポチャリ。
「え?」
一つ投げたのに音は二つ。
慌てて立って振り返ると三成が立っていた。
「誰が馬鹿だ、馬鹿」
「み…三成!?」
私の隣に並ぶように立ちじっと私を見つめる。
どうしよう、二人で話すなんて久しぶり過ぎて…言葉が出ないよ!
「おい、」
「うわぁ!はいっ!」
突然名前を呼ばれ思わず大きな返事をしてしまう。
「…お前、最近暗くないか」
「………………へ?」
思いもよらない事を言われ固まってしまう。
「…なんで、そんな……」
目が泳いじゃう。
どうしよう。
「そんな事…いつも見ていれば容易く分かる」
「!!」
泣きそうだ…。
私の事なんてもう気にも止めてないと思っていたのに。
その時だった。
風が吹いて三成から甘い香りが漂ってきて、私の鼻を掠めた。
これは…。
「……今日も、女の人と遊んできたの?」
甘い甘い、お香の香り。
あぁ、今の今まで幸せだったのに。